法律相談あれこれ
弁護士 作前千春がお答えします
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           有責配偶者の離婚請求

Q.私は、今から10年前に夫と結婚し、夫との間には小学生の子供がいます。1年前、急に夫が他の女性の元に出て行ってしまい、その女性と一緒に暮らし始め、それ以来私と子供の元に帰ってきません。彼から聞いた話によると、夫は家を出て行く大分前からその女性と不倫関係にあったそうです。 そして先日、夫が突然私の所を訪れ離婚してほしいと言い出しました。私は、まだ小学生の息子のことを考えると、夫と離婚したくはないのですが、夫の要求は通るものなのでしょうか?

A:夫婦のどちらかが離婚したいと考えた場合、まず、相手方もその離婚に合意すれば協議離婚となり、当事者間の話合いで合意がなされない場合、家庭裁判所に調停を申し立てることになります。
そして、その調停の場で調停委員や家事審判官が間に入って話合い、進展しない場合は調停が打ち切られ、多くの場合は離婚したい方が離婚の訴えを起こすことになります。
今回のケースでも、あなたが夫との離婚に応じないということであれば、あなたの夫は、調停手続きを経て裁判を起こすことが考えられます。
では、裁判になった場合、あなたの夫の離婚請求は認められるのでしょうか。 まず、民法770条第1項では、裁判上の離婚原因として、次の5つを挙げています。
@配偶者に不貞な行為があったとき
A配偶者から悪意で遺棄されたとき
B配偶者の生死が3年以上明らかでないとき
C配偶者が強度の精神病にかかり、回復の見込みがないとき
Dその他婚姻を継続しがたい重大な事由があるとき
今回は、あなたの夫が1年前に他の女性の元に出て行ってしまいその女性と一緒に暮らしているのですから、現在あなたとの婚姻関係は実質的には破綻しており、Dの婚姻を継続しがたい重大な事由があるようにも思えます。しかし、夫が自ら婚姻関係の破綻の原因を作っておきながら、そのような夫からの離婚請求が認められるのでしょうか。
判例では、かっては、自ら離婚原因を作った者、すなわち有責配偶者からの離婚請求は認められていませんでした。 しかし、その後、有責配偶者からの離婚請求でも、夫婦の別居が長期間に及び、夫婦間に未成熟子が存在しない場合には、相手方配偶者が離婚により精神的、社会的、経済的にきわめて過酷な状態に置かれる等離婚請求を容認することが著しく社会正義に反するというような特段の事情がない限り、認められるとの判決が出ました(最高裁判決昭和62年9月2日)。
この判例によると、まず、離婚請求が認められるためには、夫婦の別居が長期間に及ぶことが必要になります。具体的な期間については、その夫婦の年齢や同居期間にもよるので、個別の判断が必要になりますが、10年くらいが目安と考えられそうです。
次に、未成熟子とは、親から独立して生計を営むことができない子を言い、未成年だからといって必ずしもこの条件を充たわけではありません。 たとえば19歳でも、すでに働いていて独立した生活を営んでいる場合には、未成熟子にはあたらないでしょう。
また、離婚請求された相手方の経済的基盤が不安定で、離婚により生活が困窮するような場合は、相手方配偶者が経済的に過酷な状態に置かれるとして有責配偶者からの離婚請求を棄却する方向に働きますし、逆に、離婚請求をされた相手方配偶者が、別居期間中も自己の収入や財産により経済的に安定した生活をしているなら、経済的に過酷な状態に置かれていないとして、離婚請求が認められる方向に働きます。
このように、有責配偶者からの離婚請求については、さまざまな要素を総合的に判断して決められることになります。 さて、今回のケースですが、あなたと夫は、別居してから1年程度ですので、別居が長期間に及ぶとはいえないでしょう。また、あなたの息子さんはまだ小学生ということですので、夫婦の間に未成熟の子がいると判断されます。これらの事情からすると、あなたの夫からの離婚請求は認められないことになるでしょう。

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