法律相談あれこれ
弁護士 吉川法生がお答えします
             手付と解除

Q:私は、不動産を購入する売買契約を締結しました。その後、私は、代金支払いのため銀行から資金を借り入れる準備に取り掛かかっていたのですが、今になって契約の相手方が、前に私から受け取った手付金を倍にして返すから、契約を解除してほしいと言ってきました。
このようなことは可能なのでしょうか。


A:手付金には、①証約手付、②解約手付、③違約手付の3種類があります。
①証約手付とは、契約を締結したということを示し、その証拠という趣旨で交付される手付です。なお、手付が②解約手付または③違約手付の効果を持つ場合でも、常にそれと兼ねて①証約手付の効果を持つと考えられています。
②解約手付とは、手付の金額だけの損失を覚悟すれば、相手方の債務不履行がなくても契約を解除できるという趣旨で交付される手付です。
③違約手付とは、買主が債務の履行をしないときに、違約罰として没収されるという趣旨で交付される手付です。
売買契約が締結されるとき、これらのうちのどの手付にするのかは当事者間の合意で決まりますが、特に合意がなかった場合には、②解除手付としての性質を有するものと解されます。また、宅地建物取引業者が売主となる売買に際して手付を授受したときは、解約手付とみなされます(宅地建物取引業法39条2項)。
そして、解約手付として手付金が交付された場合、契約の締結後であっても、買主は手付を放棄し、また売主は受け取った手付金の倍額を償還して、契約を解除することができます。
では、どのような場合に売主は手付金の倍額を償還して解除することができるのでしょうか。
この点、民法557条1項では、「買主が売主に手付を交付したときは、当事者の一方が契約の履行に着手するまでは、買主はその手付を放棄し、売主はその倍額を償還して、契約の解除をすることができる」とされています。
そして、この条文に規定されている「履行に着手」という点について、判例は、債務の内容たる給付の実行に着手すること、すなわち客観的に外部から認識しうるような形で履行行為の一部をなし、または履行の提供をするために欠くことのできない前提行為をした場合を指す、としています。
そして、この「履行に着手」したといえるかについては、たとえば、判例は、買主が履行期到来後、売主にしばしば明渡しを求め、この間明渡しがあればいつでも残代金の支払をなしうる状態にあった場合、履行の着手があるとしています。
さて、本事例についても、あなたが「履行に着手」したかを具体的な事情を考慮して判断することになりますが、銀行から借り入れの準備をしただけであれば、客観的に外部から認識しうるような形で履行行為の一部をなし、または履行の提供をするために欠くことのできない前提行為をしたとはいえず、「履行に着手」したとはいえないとして、売主の解除が認められる可能性が高いでしょう。
なお、同条の「当事者の一方」とは、解除される側のみを指しますので、売主が履行の着手に入っている場合でも、売主のほうからの解除はできることになります。


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