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民法の改正6(賃貸借)

2022.06.22 > 新着情報

 賃貸借に関する改正事項としては、①賃貸借の意義に関するもの、②短期賃貸借に関するもの、③賃貸借の存続期間に関するもの、④賃借物の修繕に関するもの、⑤賃料の減額に関するもの、⑥賃借物の滅失等による契約の解除等に関するもの、⑦転貸借に関するもの、⑧賃借人の原状回復義務及び収去義務等に関するもの、⑨賃借人の用法違反による賃貸人の損害賠償請求権に係る消滅時効に関するもの、⑩敷金に関するもの、⑪不動産賃貸借に関するものがあります。

 このうち、⑧賃借人の原状回復義務及び収去義務等に関するもの、⑩敷金に関するものについて説明いたします。

 かつて、賃貸借契約終了後、賃借人が差入れた敷金から一定割合を控除して賃貸人が賃借人に返還すべき金員の額について、賃貸人が契約で定められた控除割合を超えて控除して返還する、あるいは返還しないといったことが全国でみられ、こうした敷金をめぐる案件が社会問題化したことがありました。

 これは、旧民法では、「借主は、借用物を原状に復して、これに附属させた物を収去することができる」とする使用貸借に関する規定を準用していたのですが、この準用規定は、賃貸借の終了時に賃借人が賃貸人に対して原状回復義務を負うことをも定めているものと一般に理解されていますが、文言上は賃借人の権利を定めていて賃借人が原状回復義務を負うことは必ずしも明確ではありませんでした。また賃借人が負う原状回復義務の範囲に関しても明確ではありませんでした。

 このため、全国の裁判所で敷金返還に関して訴訟が提起されました。

 こうした中、平成17年、最高裁判所は、

「賃借物件の損耗の発生は、賃貸借という契約の本質上当然に予定されて いるものである。それゆえ、建物の賃貸借においては、賃借人が社会通念上通常の使用をした場合に生ずる賃借物件の劣化又は価値の減少を意味する通常損耗に係る投下資本の減価の回収は、通常、減価償却費や修繕費等の必要経費分を賃料の中に含ませてその支払を受けることにより行われている。そうすると、建物の賃借人にその賃貸借において生ずる通常損耗についての原状回復義務を負わせるのは、賃借人に予期しない特別の負担を課すことになるから、賃借人に同義務が認められるためには、少なくとも、賃借人が補修費用を負担することになる通常損耗の範囲が賃貸借契約書の条項自体に具体的に明記されているか、仮に賃貸借契約書では明らかでない場合には、通常損耗補修特約が明確に合意されていることが必要である。」

と判示して、賃借人は通常損耗の原状回復義務を負わないという判断を示しました。

 こうした最高裁の判断も踏まえ、新法においては、

   ①賃貸借が終了したときは、賃借人は賃借物を受け取った後にこれに生じた損傷について原状回復義務を負うが、通常の使用及び収益によって生じた賃借物の損耗や賃借物の経年変化については原状回復義務を負わない(新法第621条本文)。

   ②収去義務については、賃借人が賃借物を受け取った後に賃借物に附属させた物について、賃貸借が終了したときには、賃借人が収去義務を負う(新法第622条において準用する新法第599条第1項本文)。

旨が明文化されました。

また、敷金の定義につき、「いかなる名目によるかを問わず、賃料債務その他の賃貸借に基づいて生ずる賃借人の賃貸人に対する金銭の給付を目的とする債務を担保する目的で、賃借人が賃貸人に交付する金銭をいう。」と定められました(新法第622条の2第1項柱書き)。「保証金」や「権利金」といった呼び方もよく使われていますが、上記の趣旨で交付された金銭であれば新法の敷金に関する規律の適用を受けます。